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メカ鈴凛はメカアニキの夢をみるか?


10



















私は目を開いた。

頭にゴーグルを載せた、ショートカットの少女が私を覗き込んでいた。
「おはよう、メカ鈴凛」
「おはようございます。マスター」

「うん・・・セルフチェックで問題は出なかったようね」
少女はノートパソコンの画面を見ながら言った。

「はい。システムは正常に起動しました。各部問題ありません」
私は答えた。


少女の名は鈴凛。私の制作者であり、私の所有者である。
ゆえに私は彼女をマスターと呼んでいる。


ピンポーン
玄関の呼び鈴が鳴った。

「えっ!アニキもう来ちゃったの?・・・それじゃあ、私、学校に行ってくるから!」
マスターは大慌てでラボを出て行こうとする。

「いってらっしゃいませ。マスター」
私がそう言ったときには、すでにラボは無人だった。


私は、私専用に作られたシートに横たわり、頭についている球体にケーブルを接続した。
マスターが学校へ行っている間に、テストプログラムを実行し、データを収集するのが、私の仕事だ。

私は、思考回路をチェックモードに切り替えた。

テストプログラムNo.1 LOAD ・・・ RUN ・・・ DONE

テストプログラムNo.2 LOAD ・・・ RUN ・・・ DONE

テストプログラムNo.3 LOAD ・・・ RUN ・・・ DONE

・・・

一人の時間が過ぎて行く・・・


・・・


「ただいま」
マスターがラボに入ってくると、照明が付き、部屋が明るくなった。
「お帰りなさい。マスター」
私はいつものように答えた。

「じゃあ、テスト結果をチェックするから・・・」
マスターはそう言うと、ノートパソコンをカチャカチャと触り始めた。
私は、いつもより元気がないマスターの様子が気になった。

「うーん、このブロックは、だいたいよさそう。・・・こっちも・・・まあ、こんなものかな・・・」
やはり、マスターの様子がいつもと違う。

マスターは、ノートパソコンをカチャカチャと打っていたが、不意に手を止め
「はあ」
ため息をついた。

「マスター、何か問題でも?」
「えっ、ああ、ゴメンゴメン。あなたには問題ないのよ、・・・」

マスターは時々、歯切れの悪い答え方をする。
こんなときは、たいていあの方が原因なのだ。

「アニキ様ですか?」
「えっ、・・・うん、まあそうなんだけど、・・・」

マスターは私の方を見ずに
「今日、また、アニキに、資金援助してもらっちゃった、・・・」
小さな声で言った。

「現在の我が家の経済状態からすると、臨時収入は大変喜ばしいことに思えますが、何か問題なのでしょうか?」
「そりゃ、研究資金が増えるのはいいんだけど、・・・ホントは、ホントはね、今日は、"資金援助して" なんて言うつもりなかったの。ホントは、アニキに"ありがとう"って言いたかったの、・・・でも、アニキの顔を見てたら、・・・なんだか急に恥ずかしくなって、つい、・・・なんで、私、いつもこうなのかな、・・・」

マスターはうつむき加減で、声がだんだんと小さくなっていき、そのまま何も話さなくなった。

「マスター。マスターの気持ちは、ちゃんとアニキ様に伝わっていると思います。だからこそ、何回も資金援助してくださるのではないでしょうか?」
私が、そう言うと、マスターは私の方を見て、
「・・・ありがとう、メカ鈴凛。あはは、あなたに慰めてもらうなんて、・・・作った私がいうのもなんだけど、あなたってほんとによくできてるわ」

マスターは、いつもの顔に戻った。


「じゃあ、次は関節部の駆動チェックをやるわよ!」

私は、マスターの指示通りに腕や指を動かした。

「どれどれ、・・・うん、・・・すごい、反応速度が5%もアップしてるわ。たぶん、このまえ組み込んだ制御モジュールが効いているみたいね・・・動きも滑らかになってきてるし、・・・良い感じよ!」

マスターは、私とノートパソコンの画面を交互に見ながら、表示されたデータに微笑んだ。

私は、今のマスターの顔が一番好きだ。
生き生きとして、力強い、自信に満ちあふれている笑顔が・・・


・・・


「うーん、今日は、これくらいにしとこうかな。ふああ」
マスターは大きな欠伸をした。

「じゃあ、おやすみメカ鈴凛」
「おやすみなさい、マスター」

マスターがラボを出て行くと照明が消え、部屋が暗くなった。
私も、もう眠る時間だ。

人間は眠っている間に夢をみると聞いた。
しかしロボットである私は夢を見ない。

私にとって、眠りは、動かない時間でしかないのだ。

スリープモードに入ったとき、私の思考回路は停止する。
そして、朝になると、再び動き出す。

それは私にとっては一瞬の出来事。

夢を見る時間は、・・・無い。


10



スリープモードへのカウントダウンが始まった。





明日が、マスターにとって、良い一日でありますように







マスターが良い夢を見ることができますように







私は祈った。そして私は眠りについた。


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