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拝啓
アニキ。お元気ですか?

私は今、アメリカにいます。
ニューヨークで行われる、世界ロボット博の講演会に出席するためです。

最近は、講演会ばっかりで、なかなか日本へは帰れません。
でも、きっとメカ鈴凛が私の代わりにちゃんとアニキをお世話してると思っています。

アニキのとこにいるメカ鈴凛は、今、世界中で1000万台いる家庭用汎用ロボットのオリジナルなんだから、だいじにしてよね

次の講演会が終わったら、ちょっとだけ、日本へ帰れそうです。
会える日を楽しみにしています。

それでは、アニキもお体に気をつけて
夏風邪なんてひかないでね
敬具

あなたのリンリンより


- もうひとつの未来 -


私は今、ニューヨークにいる。
ここで開催される世界ロボット博の講演会に出席するためだ。

学生のころ、自力で開発したロボット"メカ鈴凛"に注ぎ込んだ技術力を買われ、とあるロボット製造メーカーに就職した。
そこで、メカ鈴凛をベースにした家庭用汎用ロボット"Rシリーズ"を開発。
Rシリーズは、ヒット商品となり、今では世界中の家庭で活躍している。
近々、生産工場を新設する予定で、改良型の開発も進んでいる。


私は、いつのまにかロボット工学の権威という立場になっていた。
講演会やら学会やらで世界中を飛び回り、本来の研究に打ち込む時間は少なくなった。
ときどき、昔を思い出して懐かしむ。

「アニキと一緒にいたころが、一番楽しかったかな・・・」


私が、ホテルで休んでいたとき、誰かが部屋のドアをノックした。
そこにはビシッとスーツを着込み、精悍な顔付きの紳士がいた。
「はじめましてリンリン博士。私は、陸軍特殊作戦部所属スミスです。」
スミス氏はさわやかな笑顔で言った。


私はスミス氏につれられて、ある施設に来ていた。
「まずは、これを見ていただきたい」
スミス氏がそう言うと、シャッターがガラガラと開いた。

中にはメカ鈴凛そっくりのロボットが立っていた。
・・・手に銃を持っていた。


「これは、どういうこと?」

「我々のプロジェクトの結論だよ。現在、我が軍は世界中に30万もの兵士を派兵している。だが、日に日に高まる緊張状態にもかかわらず、ここ数年、志願兵の数は減少している。さらに、派兵している兵士たちの維持にも莫大な資金が必要で、我が国の財政を悪化させているのが現状だ。これらの問題を一度に解決するのが、Rプロジェクト、ロボット兵投入計画というわけだ。」

「・・・」

「本日、我々の施設にご招待したのは、リンリン博士に、プロジェクトの推進を支持していただきたいと・・」
「メカ鈴凛は、Rシリーズは、人殺しの道具じゃないわ」

「・・・なるほど、たしかに自分のつくったものが戦闘行為を行うのは抵抗があるかもしれない。しかし、こうは考えられないだろうか?ロボット兵が一体、戦線に投入されれば、尊い合衆国兵士一人の命は守られるのだ。これは、人命を守る、大事なプロジェクトなのだよ」
「戦争なんかしなければ、人は死なないのよ!」
私はいつのまにか、涙を流していた。

「・・・どうやら、今日は、これで終りにした方が良いみたいだな。誰か、リンリン博士を送っていってくれ」
私は、施設を後にした。

「どうするんだスミス。リンリン博士の支持がなければ、プロジェクトの存続は難しいぞ」
スミス氏と誰かがこそこそと何か話していたようだが、私は聞いていなかった。


その日、私はなかなか寝付けなかった。
銃を持ったメカ鈴凛が私に銃口を突きつけているイメージが頭の中から離れなかった。

「私、こんなことをさせるために、メカ鈴凛を作ったのじゃないのに・・・」


夜明け近くになってようやく私はウトウトとし始めた。


・・・


私は廃墟の中に立っていた。
ドーン、ドーン、という振動で空気が震えている。
どんよりと曇った空に向かってオレンジ色の光がいくつも伸びていた。
その光は、現実を知らなければ、美しいとも思える幻想的な雰囲気だった。
だが、私は、現実を知っている。
それは、テレビで見た、戦争の光景だった。
私はぼんやりとその光景を見ていた。

ジャリ
何かを踏みしめる音に私は振り返った。

銃を構えたメカ鈴凛がそこに立っていた。

私は<ああ、これは夢なんだ>と思った。
昼間見たメカ鈴凛の姿が私にこんな夢を見せているのだと思った。

ジャリッジャリッ
メカ鈴凛は私のそばをゆっくりと進む。

突然、建物の影から女性(特徴的な衣装からの推測だけど)が飛び出してきた。
手には銃を持っていた。

その女性は
パンパンパン
と銃を撃った。

だが、鉄の体を持つメカ鈴凛は止まらなかった。

そして、
「あっ」
パスッと乾いた音がして、次の瞬間、女性が倒れた。
女性の体から大量の血が流れ出した。

血の色が、赤かった。


私はその場に立ち尽くしていた。
早く目を覚してと祈っていた。


建物の影から、今度は少年が出てきた。
少年は倒れた女性に駆け寄ると、女性の体を揺さぶり、何か叫んでいた。

メカ鈴凛は無表情で少年に銃を向けた。

「やめてっ」
私は叫んだ。

メカ鈴凛の指が銃の引き金をひこうとする。

「やめてーーーーーーっ」

パスッ


・・・


「はぁはぁ」
私はベッドの上にいた。
シーツが汗でびっしょりと濡れて気持悪い。

「あああっ、うああああっ」
私は大声で泣いた。


・・・


私は、体調がすぐれないという理由で、ニューヨークでの講演をキャンセルした。
そして今、日本に帰って来ている。
アニキには・・・会えなかった。


その後、友人から、あのプロジェクトの結末を聞いた。
一部の軍人が強引にプロジェクトを押し進め、試験的にメカ鈴凛を実戦投入したらしい。
だが、それは失敗に終わった。

敵兵を前にしたメカ鈴凛は、司令部の「そいつを撃て」という命令に、自分の銃で、自分の動力ユニットを撃ち抜いて"自殺"したそうだ。
結局、メカ鈴凛は人を撃つことはなかった。

私はその話を聞いて、泣きながら微笑んだ。


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今日は8月9日
長崎は原爆の日です

ふと思いました

人類は400万年かけて、サルから進化しましたが
その結果、作ったのが原子爆弾

サルのままのほうがよかったのか?


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