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プリンの行方


「3時になりました。ここからは芸能情報です」
僕はリビングでぼおっとテレビを見ていた。
テレビでは、女性アナウンサーと、芸能通と呼ばれる人たちが、あれやこれやと話している。

「ああーーーーーーー!!」
突然、台所から、大声が聞こえた。

僕が台所に行くと、雛子が冷蔵庫の前で、ペタンと床に座って泣いていた。
「うえっ、うえっ、ヒナの、ヒナのプリンが、・・・プリンが、なくなっちゃったよー!うわーーーん」

「いったい、何事チェキ?」
僕にちょっと遅れて、四葉も台所に飛込んできた。

「ううっ、ヒナ、ヒナ、おやつに食べようと思ってたプリンが、プリンが・・・うわーーーん」
冷蔵庫の中を覗くと、確かに何もない。

「事件デス。これは、大事件のニオイがするデス!」
「い、いや、四葉。そんな大騒ぎすることじゃ・・・」
「いまこそ名探偵四葉の登場のときデス!みごとこのカイ事件を解決して見せマス!!グランパの名にかけて!!!」

「・・・ところで、雛子。プリンはこの冷蔵庫に入れてたんだよね?」
僕は一人で盛り上がっている四葉を無視して雛子に話しかけた。

「うん、・・・ヒナ、お昼ゴハンの後、咲耶ちゃんとお買い物にいってね、ヒナがおやつ食べたいっていったら、「みんなには、ナイショよ」って言って、プリンを買ってくれたの・・・それで、後で食べようと思って、この冷蔵庫に入れてたのに、・・・それなのに、それなのに・・・うわーーーん」
「ヒナ、泣かないで。僕がプリンを見つけてあげるから」
「ぐすん、ほんと?」
「ああ、まかせて」


「ムムー、なるほど、チェキほど。プリンがこの冷蔵庫にあったのは、雛子ちゃんが帰ってきた後からで、うーん、四葉のチェキノートによると、雛子ちゃんが帰ってきたのは午後2時頃ってなってマス。
それから、雛子ちゃんが冷蔵庫をあけたとき、だいたい午後3時頃、には、プリンはなかった。つまり、午後2時から午後3時までが犯行時間ということデス。」
「ふーん、って雛子のことまでチェキしてたのか・・・」

「この時間に家に訪ねてきた人はいませんから、内部の犯行ということデス!うー、名探偵の血がさわぐデス!」

僕は妹たちの中に犯人がいると思いたくなかった。
ちょっと個性的だけど、人のものを勝手に食べてしまうような妹はいないと信じたい。


「・・・とりあえず、咲耶は犯人じゃないと思う」
「どうしてデスか?」
「咲耶は、雛子にプリンを買ってあげたんだから、その咲耶が、雛子のプリンを食べるはずないだろう」
「うーん、言われてみれば、そうかもしれないデス。さすが兄チャマ、名推理デス!」

「エヘヘ、咲耶ちゃん、とってもやさしいんだよ。この前もね、ヒナ、クッキー買ってもらっちゃったの」
「えーーそうなんデスか?ムゥー不公平デス!この前、四葉もスパイセットが欲しいっていったときは、咲耶ちゃん、買ってくれなかったデスよ」
「いや、四葉。それは、僕でも躊躇するよ・・・」


三人の様子を影から覗いていた咲耶は
「ナイスよ!雛子ちゃん!やっぱり姉らしいことをやっておくものね!これで、お兄様の私に対する好感度パラメータは急上昇ってとこかしら」
咲耶は小さくガッツポーズをした。

「でも、・・・ちょっと、中に入って行きづらい・・・」
意外にシャイな性格の咲耶だった。


「四葉のチェキノートによると、可憐ちゃんはピアノのレッスン。春歌ちゃんは弓のお稽古にいってマス」
「つまり、この二人は物理的に犯行は無理ってことだな・・・となると残りは、花穂、衛、鞠絵、鈴凛、白雪、千影、亞里亞」
「とりあえず、怪しそうな人物から当たっていくデス!」


僕と雛子、四葉の三人は亞里亞の部屋へきた。

「なんで亞里亞なんだ?」
「ちっちっちっ、兄チャマはまだまだデスね!おやつを勝手に食べちゃうといったら亞里亞ちゃんしかいないデス!
きっと、お腹がすいて台所にいったら、冷蔵庫にプリンがあったので、つい食べちゃったんデス!間違いないデス!」

「ええっ、ヒナのプリン、亞里亞ちゃんが食べちゃったの?」
「えっ、いや、その、・・・と、とにかく、亞里亞と話をして見よう」

僕たちは亞里亞の部屋に入った。

「兄や、いらっしゃい」
亞里亞はウサギのぬいぐるみを抱えていた。

「あの・・」
僕が話しかけようとしたとき
「亞里亞ちゃん、ヒナのプリン知らない?」
雛子が亞里亞に尋ねた。

「雛子ちゃんのプリン?・・・亞里亞、知らないです」
「本当かい?」
僕が問いただしても、亞里亞はキョトンとしている。

「ヒナのプリン、誰かに食べられちゃったの・・・」
雛子がしょんぼりとした顔で言うと
「じゃあ、亞里亞のプリンをあげます」
亞里亞はトコトコと部屋の隅にあった冷蔵庫へ歩いていくと扉をあけた。
中には、ぎっしりとプリンがつまっていた。

「すごーい」
雛子が驚く。
「兄やも食べる?」
亞里亞はプリンを一つ僕の方に差し出しながら言った。


「亞里亞じゃないな」
「そうデスね」
僕と四葉は亞里亞の部屋を出た。

部屋の中からは、雛子と亞里亞の楽しげな声が聞こえくる。

「まあ、とにかく、雛子が元気になって良かったな。万事めでたしめでたしっと」
「ムゥー兄チャマ、まだ事件は解決していないデス!このまま放っておいたら、事件は迷宮入り・・・名探偵の名折れデス!」
「そうは言ってもなあ・・・」
「次の容疑者のところに行くデス」


「次の容疑者は花穂ちゃんデス」
「花穂?」
「ハイ。つまみ食いをするといえば、花穂ちゃんしかいないデス!
きっと、お腹がすいて台所にいったら、冷蔵庫にプリンがあったので、つい食べちゃったんデス!間違いないデス!」
「・・・なんかついさっきも同じセリフを聞いたような・・」

僕たちが花穂の部屋まで行くと、ちょうど花穂が部屋から出てきたところだった。
「グッドタイミングデス!花穂ちゃん。今日、台所に・・・」
四葉がそう言おうとしたとき

「花穂、台所なんかに行ってない、よ。ずっと、お庭にいたもん」
花穂はおどおどしながら答えた。

僕と四葉は顔を見合わせた。

「実は、台所でね・・・」
僕が花穂に話しかけようとしたとき
「花穂、台所なんかに行ってないもん。冷蔵庫なんかにさわってないもん!」

「冷蔵庫!」
僕と四葉の言葉が重なった。

花穂は明らかに動揺したような顔になって
「花穂、・・花穂、知らない!」
そう叫んで廊下をものすごいスピードで走っていった。
いままで、あんなスピードで走る花穂を見たことがない。しかも一回もコケなかった。

「はっ、兄チャマ、追い掛けるデス!」
僕は走り出そうとした四葉の手をつかんで止めた。

「どうして追い掛けないデスか?」
「いまからじゃ追い付けないし、・・・それに犯人は花穂だって、まだ決まったわけじゃないだろ。とりあえず、ほかの人から当たろう・・・花穂は最後でもいいだろ」

今、一番、動揺しているのは僕かもしれない。
まさか、花穂が・・・


花穂と入れ替わるように衛がやって来た。
「ねえ、あにぃ、花穂ちゃんどうしたの?なんかすごいスピードで走っていったけど」
衛は手に買い物袋をぶら下げていた。

「いや、なんでもないよ・・・」
「ふーん、あっ、そうだ、あにぃにお土産があるんだ」
衛はそう言うとお団子が入った袋を僕に手渡した。

「ほら、あにぃ、前に好きだっていってたじゃない?ちょうどタイムセールをやってて安かったから買ってきたんだ」
衛は僕に袋を渡すと自分の部屋に戻っていった。

お団子の包みに目をやると、「タイムセール品(14:00ー15:00)」というラベルが貼ってあった。

「このラベルから推測すると衛じゃないみたいだな」
「兄チャマ、あまいデス!アリバイ作りのためにアイテムを利用するのは、推理小説ではよくある手デス。むしろ、こんなアイテムをわざわざ四葉たちに見せたのが余計にアヤシイデス!」

「・・・いや、やっぱり衛じゃない。衛はそんな細かいことは考えないよ」
「ふむ、確かにそうかもしれません・・・」
二人とも何げにひどいことを言っている。


「次は鞠絵か」
僕は鞠絵の部屋のドアをノックした。

鞠絵は部屋にいて、椅子に座って本を読んでいた。

「鞠絵ちゃん、今日の午後2時から午後3時まで、どこで何をしてマシタカ?ウソをつくとためにならないデスよ」
四葉は部屋に入るなり、鞠絵に向かって言った。

「???いきなり、どうされたのですか?」
困惑する鞠絵。

「おいおい、四葉。いきなり、そう言っても分けがわからないだろう?」
僕は事の顛末を鞠絵に説明した。


「なるほど、雛子ちゃんのプリンを誰かが食べてしまわれたので、犯人を二人で探しているわけですね?
そうすると・・・うーん、わたくし、その時間は一人、この部屋で本を読んでいましたけど・・・そういう意味ではわたくしにアリバイはありませんね」
さすが鞠絵。いつも冷静だ。

「ナント!?鞠絵ちゃん、罪を認めるデスか?うーん、予想外の結末デス」
「四葉、人の話はちゃんと聞け。・・・分かったよ鞠絵。鞠絵は犯人じゃない」

「ええっ、どうしてデスカ?」
「もし鞠絵が事情を知らずに食べてしまっていたなら、今、僕たちに話してくれるはずさ。また、鞠絵が雛子のプリンと知っていたら、それこそ絶対に食べることはない。」
「兄上様・・・」

「じゃあ、ジャマしたね、鞠絵」
僕たちが部屋を出ていこうとしたとき
「兄上様、ありがとうございます。・・・でも、わたくし、兄上様が思っているほど良い子ではありませんよ」
鞠絵が何か呟いた。

「?・・・何か言った?」
「いいえ、なんでもありません」
僕と四葉は鞠絵の部屋をあとにした。


「鈴凛と白雪は部屋にいなかったな・・・」
「はい、四葉のチェキノートによると、いつもこの時間は、鈴凛ちゃんはラボに引き籠もり、白雪ちゃんはお買い物に行ってるはずデス」
「ふーん、そうか・・・って、良く考えたら、四葉、そんなに細かくチェキしてるんなら午後2時から午後3時まで、台所に誰かいたか、わかりそうなもんじゃないのか?」

「へっ、・・あの、それは・・・その、よ、四葉にもチェキできない事があるんデス!四葉だってホームズのような名探偵にはマダマダおよばないのデス。だから、四葉は毎日毎日、血のにじむような特訓をしてるデスよ」
僕は、特訓ってなんなんだと思ったが、聞くと話が長くなりそうだったので、それ以上聞かなかった。


「やっぱりここは避けて通れないのか・・・」
僕たちは千影の部屋の前にいた。

「とりあえず、千影ちゃんにプリンを食べた犯人を占ってもらうデス」
「そうだな・・・いきなり容疑者扱いしたら、後でなにされるかわからないからな。遠回しに探っていくってことで・・・」

「失礼な言い方だね・・・兄くん」
いつのまにか、千影が僕の背後に立っていた。

「おわっ、ち、千影!いつのまに」
「フッ、まあいい、・・・明日、兄くんが実験に付き合ってくれるということで、手を打つことにするよ・・・さあ、中へはいりたまえ」
なんか、さりげなく生け贄にされてるんですけど・・・
釈然としないものを感じながらも千影の部屋に入った。


「さて、雛子ちゃんのプリンを食べた犯人を探しているんだね?」
何でそれを知っているのか甚だ疑問ではあるが、千影だからの一言で無理やり納得した。

「ちょっとやってみよう・・・」
千影はそう言うと、水晶玉に手をかざし、じっと見つめた。

・・・

・・



「ふむ、これは・・・」
「何か分かったのかい?」

「ああ・・・私の占いでは、・・・犯人はいない・・・ということだ」
「えっ、いないって?」

「つまり、だれも・・・雛子ちゃんのプリンを食べていない・・・ということさ」
「えっ、どういう事?」

「言葉通りだよ・・・さあ、もういいだろう。これから実験をするんだ。出ていってもらえないか?・・・まあ、実験台になってくれるのなら、ここにいてもかまわないが」

「千影、ありがとう」
僕と四葉はすぐに千影の部屋を飛び出した。


「ふう、これで白雪ちゃんと鈴凛ちゃん以外、容疑者全員の話を聞いたことになりマシタけど、・・・」

「いや、まだ、容疑者はいる・・・」
「えっ、誰デスか?」

「僕と、・・・四葉だ」
「そ、そんな」

「可能性の問題だよ。この家にいる人全員が容疑者なんだから」
「確かに、・・・うーん、探偵が実は真犯人だったなんて古典的ですが十分ありえマス!四葉すっかりだまされてたデス」

「僕は犯行時間にはリビングで一人でテレビを見ていた。まあ、ようするにアリバイはないともいえるかな・・・四葉はどうなんだい?」
「えっ、よ、よ、四葉は、その時間は何にもしてないデス。兄チャマのお部屋になんて行っていないデス」

「・・・四葉。僕の部屋に行ってなにしてたの?」
「えっと、それは、その、・・・兄チャマがいない間にちょっとお部屋をチェキさせてもらおう思って・・・」

「・・・」
「ホントにホントデス!四葉、謎カードなんて隠して、あわわ」

四葉は隠し事をするのは無理だな・・・
僕は四葉が犯人じゃないと思った。

だが、それよりも四葉が言った"謎カード"の方が気になった。
「四葉、謎カードってなに?」
「そ、それは・・・」
「とにかく、僕の部屋に行こう」
僕は四葉をつれて自分の部屋に行った。


謎カードなるものはすぐに見つかった。
教えてくれたのは四葉だ。
正確に言うと、四葉の態度で分かった。

僕がカードの隠し場所近くを通ると
「ああっ、兄チャマ!四葉はこっちのほうがアヤシイと思うデス!」
とあからさまに変な態度をとったからだ。


謎カードを見ると
"現場に戻れ!"
と書いてあった。

「なんだこりゃ?」
「ふっふっふー、いかに兄チャマでも、この謎は解けないデス」
そりゃそうだ、これで分かったら、超能力者か宇宙人だ。

「それはですねー・・・」
四葉はカードの説明をしたいようだが、僕はやめさせた。

「とりあえず、台所に戻るか・・・」
僕たちは台所へと戻った。


「ふっ、こんなものね。さて、これを元に戻して・・・」
台所では、鈴凛が、一仕事終えたという爽快な顔をして立っていた。

「やあ、鈴凛・・・」
僕が鈴凛に話しかけようとしたとき

「ああーーーっ、兄チャマ!雛子ちゃんのプリンデス!」
四葉が鈴凛を指さして叫んだ。

鈴凛は手にプリンを持っていた。

うん、確かに、雛子のプリンだ。
フタにマジックで大きく
"ヒナの"
と書いてあった。

「鈴凛、それ、どうしたの?」
僕が鈴凛に聞くと

「えっ、ああ、冷蔵庫に入ってたから・・・」
「ナント!犯人は鈴凛ちゃんだったのデスね・・・はっ、謎カードには"現場に戻れ!"って書いてあったということは・・・あれは、犯人が台所にいることを予言していたのデス!
スゴイ、四葉の謎カードが全てを解決したデス!!」

「鈴凛、・・・それを冷蔵庫から持ち出したのは鈴凛なのかい?」
「うん、そうよ、だって、そのままだと悪くなっちゃうし・・・」
「もう決まりデス。さあ、鈴凛ちゃん。おとなしくお縄につくデス!」
四葉は、いつのまにか、手にロープを持っていた。


そのとき台所に白雪が入ってきた。
「鈴凛ちゃん、冷蔵庫、直りましたの?
・・・あら、にいさまに四葉ちゃん。こんなところに来るなんて、どうかしたんですの?
あっ、もしかして、お腹空いちゃいましたかしら・・・そうだ、姫、お菓子屋さんでドーナツを買ってきましたの。みんなでお茶の時間にするんですの」
「ドーナツデスか?わーい、四葉もティータイムしたいデス!」

僕は四葉の変わりように、一瞬、呆気に取られたが、さっきの白雪のセリフがちょっと気にかかった。
「白雪。さっき冷蔵庫がなんとかって言ってなかった?」
「ええ、姫がお買い物に行こうとしたとき、お台所へ来てみたら、冷蔵庫が壊れてて、全然冷えなくなっていましたの。だから、姫、鈴凛ちゃんに修理を頼んだんですの」

「そうなの。だから私、うーん、だいたい2時半ぐらいだったかな・・・ちょっと見てみようと思って、台所にきたんだけど、ちょっと修理に時間がかかりそうだったから、冷蔵庫の中のものが悪くなっちゃわないように、とりあえず、小さいほうの冷蔵庫に中身を移してたんだけど・・・」

「えっ、そうだったのか。じゃあ鈴凛は食べようと思ってプリンを持ち出したんじゃ・・・」
「これだけ大きく名前書いてあったら、いくら私でも食べないわよ」

「なるほど、チェキほど。兄チャマ、これで全ての謎が解けマシタ!いやー、四葉の推理通り、プリンは誰も食べてなかったデス!」
・・・さっき、おもいっきり鈴凛を疑ってたじゃん

結局、事の真相は、雛子が冷蔵庫にプリンを入れた後、冷蔵庫を修理にきた鈴凛がプリンを別の冷蔵庫に移しておいたため、雛子がプリンがなくなったと勘違いしたということだった。
やれやれ


「・・・あっ、そうだ、鈴凛、冷蔵庫、直してくれたんだよね。ご苦労様。さすが鈴凛だね」
「えっ、ああ、うん、・・・ま、まあ、私にかかればこんなものちょちょいのちょいよ
・・・・ってホントはコンセントが抜けてただけなんだけど・・・・ふう、もうちょっとで冷蔵庫を分解するところだったわ、危ない危ない」
「??鈴凛、何か言った?」
「ううん、なんでも」


「とりあえず、雛子にプリンが見つかったことを知らせないと・・・」
僕は亞里亞の部屋に向かった

「うーん、ヒナ、もう食べれないよ・・・」
亞里亞の部屋に入ると
雛子はソファーの上で横になっていた。

そのそばでは亞里亞が黙々とプリンを食べていた。
いったい何個食べたんだ?
プリンの空容器が机の上に山積みになっていた。

「兄やも食べる?」
亞里亞はプリンを一つ僕の方に差し出しながら言った。


「ただいま、お兄ちゃん、可憐、今、戻りました」
「兄君さま、ただいま戻りました」
可憐と春歌が帰ってきた。

「二人とも、おかえり。お茶の用意をしてるから、リビングにきてよ」

僕が、二人と一緒にリビングに行くと、みんながソファーに座って待っていた。
・・・いや、一人足りない。

「あれ?花穂は・・・あっ!!」
僕は、花穂の事を思い出した。

「花穂を見かけなかった?」
みんなに花穂のことを聞いたが、知らないようだった。

「花穂を探してくる!」
僕は家を飛び出した。


「花穂、・・花穂、知らない!」
そう言って、走り去った花穂を思い出した。
花穂はプリンを食べてなかったのに、なんで逃げ出したんだろう?


花穂は、公園のブランコに座っていた。
もうすぐ、日が落ちる時間で、空はオレンジ色に染まっていた。

「花穂」
僕が話しかけると
「お、お兄ちゃま」
花穂はびっくりしたような顔で僕を見た。

「花穂、・・・もうすぐ暗くなるから、家に帰ろう」
「・・・」

花穂はうつむいて何も言わない。

「花穂」
僕が、花穂の肩に手を置いたとき
「うわーーーん。お兄ちゃまぁ。花穂、花穂、・・・もうみんなに会えないよう」
花穂が突然泣き出した。

「どうしたの?訳を話してごらん」
「あの、・・・花穂、喉が乾いたから、何かお飲み物ないかなと思ってお台所にいったんだけど・・・」
「うん」
「冷蔵庫の前で、その、こ、転んじゃって、・・・それで、ゴッツンて、冷蔵庫に頭ぶつけちゃったの・・・そしたら、・・・そしたら、冷蔵庫が、プッツンって、・・・壊れちゃって」
「ええっ!」
「ふえーーーん、きっとみんなあきれちゃって、花穂のこと許してくれないよう!」


「花穂、ぶつけたのは、どの辺り?」
僕は花穂の頭を優しく撫でながら言った。
「ふえっ」

「ここらへんかな?」
「あっ、お兄ちゃま。もう痛くないよ」
どうやらたいした傷にはなっていないようだ

「よかったよ、花穂に怪我がなくて」
「でも、花穂、冷蔵庫、壊しちゃったよ」

「花穂、冷蔵庫は壊れても直せばいいんだよ。でも、花穂が怪我をしてもしものことがあったら・・・そっちの方が、心配だよ」
「お兄ちゃま・・・」

「さあ、もう帰ろう」
「はい、お兄ちゃま」

「それにもう、冷蔵庫は鈴凛が直してくれたから、花穂は何も心配することはないんだよ」
「鈴凛ちゃんが?」
「ああ、後で鈴凛にお礼言っとかないとね」


僕と花穂は手をつないで家へ帰った。

夕焼けが綺麗だった。


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