私の手の中にあるもの
今日のような、闇がささやく夜は・・・秘密の儀式を行うのに、とても良いんだ。
桜色のトリュフ、紫色のバラの果実、マンドレイクの根、それに・・・
フフフ、この秘薬ができれば兄くんは・・・
最後に、トゲがついた花妖精の種を入れれば・・・完成だ
この秘薬を飲んだとき・・・兄くんは、どうするだろうか?
ちょっと楽しみだな・・・
兄くんは・・・昔のように、私を・・・優しく、抱きしめてくれるだろうか・・・
フフフ・・・兄くんは・・・私を抱き寄せて・・・私の髪を指で梳くのが・・・好きだったな・・・
・・・あぁ、ちょっと考え事をしてしまった・・・
さあ、最後の仕上げを・・・
パキッ
「?!・・・」
私は、最後の物を入れようとしたが・・・無意識のうちに、手に力がはいっていたみたいで・・・種を指でつぶしてしまい・・・左手を怪我してしまったんだ。
私としたことが・・・妙な考え事をして・・・力加減を間違えてしまうなんて・・・
フフフ・・・やはり、兄くんは・・・私の心を惑わせるんだね・・・
これも魂が引かれあうものたちゆえ・・・のことなんだろうか?
しかし・・・ちょっと、左手の指が痛い、かな・・・
私は、エリクサーを塗り込んだ布を指にあてがい、包帯で巻いて固定することにした。
「・・・不揃いに・・なってしまった、か・・・」
片手で包帯を巻くのは難しい・・・まあ、明日の夜には、怪我も治っていることだろうから・・・たった1日の辛抱だ。
私をこんなめにあわせるとは・・・やはり兄くんには、秘薬を飲んでもらわないといけないな・・・フフフ。
明日、秘薬の材料を買いに行かないと・・・
翌日、私は、いつものウィッチショップで、秘薬の材料を買った。
その帰り道・・・フフフ。やはり会ってしまったね・・・兄くん
兄くんは、いつものように「やあ、千影。買い物かい?」とのんびりした感じで話しかけてきたね
「あいかわらず、すごい物を買ったんだね」と兄くんは、とぼけた感じで、言っていたけれど・・・
フフフ、後で、自分が飲むことになるなんて・・・夢にも思っていないようだね・・・兄くん
それから、兄くんは私の手の包帯を見て「千影!怪我をしたのかい?」と慌てた顔をして・・・
私はたいしたことないと言ったのだけど・・・
兄くんは「ちゃんと包帯を巻かないと、だめだよ」と言って・・・包帯を巻き直してくれたね
兄くんが私の手を握ってくれたとき・・・私は感じたよ・・・やはり、兄くんと私は・・・同じ魂を持つ・・・一つになるべき存在だということを・・・
それと・・・・・・
「これでよし。もう、怪我をしないように気をつけないとだめだよ」
フッ・・・まったく、兄くんときたら・・・自分が怪我の原因になったということに・・・考えが及ばないようだね・・・
これは、やはり秘薬を完成させないと・・・いけないな
その夜、私は再び秘薬を作る儀式を行ったんだ。
今度は失敗しないように・・・
最後の、花妖精の種は、入れるタイミングが難しい。
液体の色が、ダークグリーンから、透き通ったエメラルドグリーンに変わる、その瞬間に入れないと、できた秘薬の効果は無くなってしまう。
「今・・・あっ?!」
私が、種を入れようとしたとき、トゲが包帯に引っ掛かって・・・
・・・ポチャン
・・・
シュボッ
「・・・」
ああ・・・また・・・失敗してしまった。
まさか、この包帯が、最後に邪魔してしまうなんて・・・
ひょっとして、兄くんは、私の意図に気付いて・・・たのか・・・
いや、そんなことはないだろう・・・
あのとき・・・私の包帯を巻き直してくれたとき・・・兄くんからは・・・邪な心は、感じられなかった
むしろ、私を気遣う・・・暖かいものを・・・感じたんだ
だから、本当に偶然の出来事なんだろう・・・ね
でも、この包帯を巻いていなければ、今頃は・・・
「もう傷も直ったろうし、包帯を解くことにしようか・・・」
私は、包帯に触れて・・・でも、そこで、止めることにした。
ねぇ、兄くん・・・なぜ、あのとき、この包帯を巻き直してくれたんだい?
フフフ、もしかして、兄くんは、知っていたのかい?
「男性が女性の左手の薬指に布を巻く」という行為、の意味を・・・
もしも、兄くんが・・・それを知っていて、包帯を巻き直してくれたのだとしたら・・・フフフ
私は右手で左手を包み込み、胸に押し当てた。
兄くん・・・今夜は、この包帯をしたまま・・・眠る事にするよ
「フフフッ、今夜は、良い夢が見れそうだよ・・・兄くん」
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