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発明の理由


「兄チャマファイル0885。兄チャマは、早口言葉が苦手デス」
「フムフム」
カチャカチャ

「兄チャマファイル0886。兄チャマは、辛子明太子がスキ」
「フムフム」
カチャカチャ

「鈴凛ちゃん。どうデスカ?」
「ありがとう、四葉ちゃん。もうバッチリよ・・・アニキデータもいっぱい集まったし、メカ鈴凛完成の日は、もうすぐね」
「わぁーっ、それはとっても楽しみデス♪」


私、今、メカ鈴凛っていう、私そっくりのロボット作ってるの。
どうしてそんなもの作るのかって言うと、アニキの身の回りのお世話をさせるため

だって、アニキったら、独り暮らしのせいか、部屋の掃除とかあんまりしないし、食事はたいていお弁当か外食だし・・・あっ、この前なんか外に出かけるのがめんどうだってカップラーメンなんか食べてたのよ
それに服装にも無頓着で、ときどき髪ボサボサのままで外に出かけちゃうこともあったりして
もうアニキったら、こんな生活してたらダメ人間になっちゃうよ!
だれかがアニキの面倒をみてあげなくっちゃ!

・・・ってことで、メイドさんロボットみたいなものを作って、アニキの身の回りのお世話をさせようってわけなのよ

それで、メカ鈴凛作ってるんだけど、一番苦労してるのはアニキについての情報収集なの
ほら、やっぱり、メイドさんロボットだったらお世話する人のことよく知ってた方が、なにかと便利じゃない?

例えば、朝はいつも何時くらいに起きるの?とか
お弁当で好きなおかずは何?とか
コーヒーと紅茶、どっちが好き?とか
好きなテレビ番組は何?とか
お風呂で体を洗うときはどこから洗う?とか
寝るときはパジャマなの?とか

いーっぱいデータが欲しくなっちゃうのよね

だから、今日も、四葉ちゃんからアニキのこと聞いてたの


四葉ちゃんは、最近イギリスから帰ってきた私の妹なんだけど
今までアニキと離れて暮していたせいか、アニキのことスッゴイ知りたがってるの
どれくらいスゴイかって言うと、変装してアニキの学校に忍び込んじゃうくらい・・・ねっ、スゴイでしょ?
四葉ちゃん「今日も兄チャマをチェキ!」とか言って、いっつもアニキと一緒にいるんだよね

だから、四葉ちゃんといると、アニキデータはいっぱい集まるんだけど・・・

『兄チャマファイル0852。兄チャマの胸には、ちいさい頃にケガしたときの傷跡がありマス』

知らなかった。
私、四葉ちゃんなんかよりずーっと長い間アニキと一緒にいたのに・・・知らなかった。

四葉ちゃんの話を聞いてると、私、ときどき落ち込んじゃうことがあるの
私、アニキのことあんまり知らなかったんだなぁーって

四葉ちゃんが来てから、私、アニキのこといっぱい知ることができるようにはなったけど
四葉ちゃんから、アニキの話を聞けば聞くほど、アニキが私のアニキじゃなくなっていくような感じがする、の



「それじゃ、四葉、出かけてきマス」
「え?どこいくの?」
「兄チャマのところデス。四葉のチェキノートによると、今日は兄チャマ、図書館に行く予定になってマス。読書する兄チャマ、これは要チェキデス!」
「そ、そう・・・」
「帰ってきたら鈴凛ちゃんにも報告するデス。またまた兄チャマ情報をいっぱいチェキしちゃいマース!」

そう言うと四葉ちゃんは走り出して・・・
あ、もう見えなくなっちゃった。

四葉ちゃんは、なにかあるとすぐアニキに会いに行っちゃうんだよね
でも、私は・・・


「あっ、そうだ。アニキに見せようと思ってた、アレ、やんなくっちゃ」

私、机の上にあったキカイを、グリグリといじり始めた。

<これができれば、私もアニキに会いに行ける>


何時の頃からだっけ、私がアニキのところ、そんな頻繁に行かなくなったのは
ちっちゃいころは、特に理由もなしにアニキに会いに行ってたのにな・・・

『はい、アニキ。コレ!』
『目覚まし時計?』
『アニキ、いつもお寝坊しちゃうでしょ?明日からはコレでバッチリよ!』
『あはは、ありがとう鈴凛』

アニキの喜ぶ顔が見たくて・・・
だからアニキのために発明をして・・・

でも

何時の頃からか、何かを作らないと、アニキに会えないようになってしまって・・・
何か理由がないとアニキに会えなくなってしまっていて・・・


「ええっと、コレをココにつないで・・・」

バチバチッ

「あれっ?」

ドカーン☆
モクモク

「ゴホゴホッ・・・・・・はぁ、また、失敗しちゃった・・・」

私、アニキのためにがんばってるのに、最近は失敗ばっかり
これじゃあ、アニキに会いに行けないよ・・・


・・・私、ときどき考えるの
アニキ、ホントは私のこと迷惑に思っているんじゃないかなって
私の発明品。ホントにアニキのお役にたってるのかなって

アニキが迷惑に思っているんだったら・・・アニキの役にたってないんだったら・・・こんなに失敗ばっかりだったら・・・私、もう、やめたほうがいいのかも

・・・



「鈴凛ちゃん、鈴凛ちゃん!起きてクダサイ!」
「あれ?四葉ちゃん?」

私、いつのまにか眠ってたみたい・・・最近、夜、あんまり眠れなかったからかな?

「はい、コレ!鈴凛ちゃんに修理してほしいって兄チャマから頼まれたデス」
「アニキから?」

あっ、コレ、以前私がアニキのために作った目覚まし時計

「兄チャマ、これじゃないと目が覚めないって言ってマシタ・・・って、おおっ!これは重要な兄チャマ情報デス!メモメモっと・・・」

アニキ・・・コレ・・・私の発明品、使っててくれてたんだ・・・

ありがと、アニキ

私の発明品。アニキのお役に立ってたのね
アニキ・・・私、これからもアニキのために発明品作ってもいい、よね



そういえば、コレ、私のメッセージを入れてたはずなんだけど・・・もしかして、アニキ、私の声で毎日起きてたのかな・・・うーん、なんかちょっとテレくさいかも

《 おはよー!アニキ!早く起きないと遅刻しちゃうよ!・・・えへへ、アニキぃ〜、今日もヨロシク! 》

「わわわっ、時計がしゃべったデス」
「うん、これメッセージを入れられるのよ」
「へぇ〜・・・そうだ鈴凛ちゃん!四葉もメッセージを入れたいデス」
「この時計に?」
「ハイ!四葉のメッセージで兄チャマをwake-upさせちゃうデス。クフフッ、きっと兄チャマビックリしちゃうデスよ」

あはは、四葉ちゃんって、やっぱり私の妹ね

「じゃあ、さっそく修理しなくちゃね。早く持っていってあげないと、アニキ、明日遅刻しちゃうかも」

それに、新しいメッセージも入れなきゃね

《 おはようアニキ。早く起きないと遅刻するよ・・・ねぇ、アニキ。今日、アニキに会いに行ってもいいかな 》


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