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ハルカのお願い



今日は休日。そしてお稽古もない日でした。
こんな日は・・・そう、こんな日は、一日中兄君さまのお側にいて、兄君さまのお世話をするのが一番ですわっ!
ワタクシ、そのために・・・兄君さまをお守りするために、日本へやってきたのですから・・・


今まで、ワタクシと兄君さまは、ドイツと日本・・・遠く、本当に遠い土地に離れ離れに暮していましたから・・・だからワタクシ、ほんのわずかな時間でも兄君さまのお側にいたいと、いつもいつも思っているんです。
そんなワタクシに、兄君さまは・・・あぁ、やっぱり兄君さまはとてもお優しい方です・・・「いつでも僕の家に来て良いよ」とおっしゃってくださいます。

この前、ワタクシが突然、兄君さまのお家にお邪魔することになったときも ─あのときは、お稽古場からの帰り道、急に雨が降り出して・・・困っていたところに、偶然、兄君さまとお会いしたのです─ 快く迎え入れてくださって・・・
あぁ、やはり、兄君さまは世界一ステキな殿方です!
「風邪をひくといけないから」とお風呂を沸してくださったり、お着替を用意してくださったり・・・ウフフッ、兄君さまのシャツって、とっても大きいのですね
そのうえ夕食までご馳走になって・・・
ワタクシ、兄君さまの寛容なココロに大いに感激いたしました。


それからは、兄君さまのお家へ行く機会も増えたのです。
兄君さまとはお話したり、お散歩したり、時には一緒に体を動かしたりして過すことが・・・・はっ!よく考えたら、ワタクシ、ちゃんと兄君さまのお世話をしたことが一回もありませんでしたわっ!
これではいけません!
今日こそは、兄君さまの妹として、立派にお世話いたさなくてわ!
兄君さま、待っていてくださいませ


そう思って、ワタクシ、兄君さまのお家へ行くことにしました。

普通なら、兄君さまのご迷惑にならないよう、連絡を入れてから、伺うようにしているのですが・・・今日は、兄君さまの承諾を得ずに行こうと思います。
いきなり行ったら、やっぱりご迷惑かしら?
でも、兄君さまは、ワタクシが、兄君さまのお家へ行きますからと告げると、お部屋のお掃除とかお洗濯とかいろいろなことを、ご自分で全部きれいに片付けてしまうのですもの

兄君さまは「春歌にやってもらうのは気が引ける」とおっしゃられるけど・・・
ワタクシ、兄君さまのお世話がしたいのです。
兄君さまのために何かをしてあげたいのです。

兄君さまのために部屋のお掃除をして・・・
兄君さまのためにお洗濯をして・・・
兄君さまのためにお食事を作って差し上げて・・・ウフフッ、今日こそは、ワタクシが全部あーんして食べさせてあげますわ、ポッ。
それから、お風呂を沸して・・・もちろんお背中も流してあげて・・・ついでに一緒の湯船につかったりもして・・・きゃっポポポッ

それから夜遅くなったら、お床の用意も・・・
ワタクシが「お休みなさいませ」というと、兄君さまは「今日はもっと春歌と一緒にいたいんだ」なあんておっしゃって、ワタクシの手を取って・・・それからお布団に・・・
きゃあああっそうなったらワタクシ・・・どうしましょう!ポ、ポポポポポッ



ピンポーン

呼び鈴を押すと「はーい」と少し眠たそうなお声。
ウフフッ、兄君さまったら、休日はいつもお寝坊さんなんですから
でも、殿方は毎日毎日闘っていらっしゃるのですから、お休みの日にちゃんと休養をとることは大事ですよね
普段、お忙しい兄君さまのためにも、ワタクシ、今日は立派にお仕えしなくてわっ!

そしてドアを開けて出てきた兄君さまは、寝惚け眼で寝巻きのままの、ちょっとゆるんだ恰好

いつもはキリっとしてて、とってもステキな兄君さまなんですけど
時々、休日の朝早くワタクシが兄君さまの家へ来たときなどは、このようなお姿をワタクシに見せることがあるんです。
最初は、まぁ!兄君さま!そんな恰好で!・・・と思ったこともありましたが・・・
でも、よくよく考えると、こんなにも無防備な姿をワタクシに見せるということは、兄君さまはワタクシのことを信頼して、ワタクシに心を許している、ということなのですよね
あぁ、兄君さま・・・ワタクシ、兄君さまの信頼にお応えできるよう、全力でお尽くしいたしますわ


まず最初に、ワタクシは、兄君さまのお部屋のお掃除をすることにしました。
この前、ワタクシが兄君さまのお家へ来たとき、お部屋のお掃除をしてあげたかったのですが、兄君さまは「ここはいいから」と部屋に一歩も入れさせてもらえなかったのです。
そのときは渋々諦めましたけど、今日は、絶対にお部屋のお掃除、させてもらいますからね

「失礼いたします」

始めて入った兄君さまのお部屋は、きれいに片付いていて・・・
まあ、この前兄君さまがワタクシの申し出を断ったのは、お掃除する必要がなかったからなのでしょうか?
お部屋はその人の人となりを表わすと言われますけど・・・うふふ、やっぱり兄君さまは、きちんとされている方なのですね


あまりやることはないみたいですが、それでも、一応はと思い、お掃除を始めました。
兄君さまは時々ちらちらとワタクシの様子を伺いに来ていますけど・・・ウフフッ、兄君さまは、あちらの部屋で、どうぞ御寛ぎください。
ワタクシ、立派に自分の努めを果たしてみせますわ


そして、机を布巾で拭き始めたときのことです。
ワタクシ、机の上に立ててある本と本の隙間に、なにか紙切れのようなものがはさんであることに気付きました。
これはなにかしら?

それは端の方しか見えませんでしたが、便箋のようでした。
「お文?・・・でしょうか?」
なんだか、兄君さまの秘密を見つけたようで、ちょっとドキドキします。

ワタクシがそれを引っ張り出そうとした、ちょうどそのとき ─ワタクシはその便箋のことに気をとられて気付かなかったのですが─ 兄君さまがお部屋に入ってきたのです。そして・・・

「あっ、それは!」
と急に兄君さまがワタクシに声をかけたので、ワタクシ、驚いてしまって・・・
その便箋をビリッと・・・破いてしまったのです。


「申し訳ありません、兄君さま・・・ワタクシ・・・どうしましょう」
ワタクシ、その破れた便箋を手に慌ててしまいました。
ワタクシ、兄君さまのお世話しに来たのに、こんな失態を・・・

兄君さまはちょっと悲しそうな顔をして ─なぜだか胸がチクンと痛みました─ でも、次には、いつもの優しい笑顔で
「まあ、いいさ。本物は今ここにいるんだから・・・それは、もう僕には必要ないものだから、気にしないで」
と言ったのです。

「本物?・・・ですか?」

わけが分からないワタクシに兄君さまが説明してくださいました。
この手紙は、昔、兄君さまがお祖母さまに頂いたもので、内容は幼いころのワタクシについて書かれたものだそうです。

「春歌の小さかったころのことが、いっぱい書いてあったよ」

話によると、ワタクシがあんまり兄君さまのことで騒ぐので、お祖母さまが兄君さまへお手紙を書いたそうなんです。
ワタクシ、そのときのことをぜんぜん覚えていないのですが・・・でもなんだか、ちょっと恥ずかしいですわ
だって、あの頃は、お祖母さまに、ことあるごとに、兄君さまのお話をとせがんでいたのですもの
とってもわがままな妹って、兄君さまは思ったのじゃないかしら?

兄君さまは、何も言わず、ただにっこりと笑っているだけでした。


でも・・・このお手紙・・・
兄君さまは、この手紙を読んで、まだ見ぬワタクシの姿を、あれやこれやと、ご想像されていたのでしょうか?
ワタクシがドイツで、お祖母さまに兄君さまの話を聞いて、いろいろと想像していたように

そのときワタクシ、思ったのです。
兄君さまがこんなにもワタクシに優しいのは、お祖母さまの手紙を通して、ワタクシのことを良く知っていらっしゃったからかもしれない
遠く離れた地に住み、兄君さまに会うことを願っていたワタクシの想いを知っていたからかもしれない

もしそうだとしたら・・・・
あぁ、兄君さま。やっぱり兄君さまはワタクシの背の君になるお方、ですわ。


「あ、そうそう、春歌も書いてるんだよ」
「えっ!?ワタクシも」

破れてしまった、もう一つの方の手紙には、頼りなさそうな字で ─ワタクシ、こんな字を書いていたのかしら?─ こう書かれていました。

『兄君さまにお願いです。ハルカに会ったら、だっこしてください』

いやーん、ワタクシったら・・・
それを見てワタクシ、顔を真っ赤にしてしまいました。
いくら幼いとは言え、こんなお願いを兄君さまにしてしまうなんて・・・

すると、兄君さまは
「あはは、そういえば、まだこのお願いに応えてなかったよね。今からでも良いかい?」
とイタズラっぽく笑ってワタクシに言ったのです。

もう、兄君さま・・・
そんなことを言うと、ワタクシ、本当にそれをお願いしてしますわよ


それから、ワタクシは兄君さまにお願いして、兄君さまの昔の話を聞かせてもらうことにしました。
だって、兄君さまがワタクシの昔のことを知っていて、ワタクシが兄君さまの昔のことを知らないのは不公平ですもの

兄君さま・・・ワタクシも兄君さまの昔のことを知って、兄君さまのことをいろいろ知って
もっともっと、兄君さまのお役に立てるよう、がんばりますわ

ですから、兄君さま。
ワタクシをお側にいさせてくださいませね

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あとがき

キャラコレP47にある
『「兄君さまはハルカのことだっこしてくれる?」なんて・・・質問をしてはお祖母さまを困らせて・・・』
この1行から妄想を膨らませて(^^;)書きました。

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