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起きて!
起きて!
もうこんな暗い所はイヤよ
早くあの人に会いたいの
だから、起きて!



薄暗い部屋の中、ベッドの上に少女が横たわっていた。
身長からすると中学生ぐらいだろうか?
体つきは多少細い感じがするが、その顔は血色よく、起きていれば部屋中をあちらこちらに動きまわるような、そんな快活そうな印象を受ける。

「ん・・・」
少女は目を覚した。
ゆっくりと上半身を起し、辺りを見回す。

「う〜ん・・・ここは・・・どこデスか?」
目の前が霞がかったようにぼんやりとしていた。

「わたしは・・・だれ?」
ぼんやりとしているのは記憶の方もだった。
ガランとした倉庫のように記憶の小包さえもない。
今まで自分がどこでなにをしてきたのか?自分は何者なのか?・・・わからない

「クシュン」
体がブルッと震え、くしゃみをした。
よくよく見れば、一切の衣類を身につけていない

真っ赤になって、あわてて両手で胸を押さえたが、部屋に誰もいないことに気付くと、少女はほっと一息をついた。

「ムゥー、これは謎デス・・・」
今自分が置かれている状況を考え、少女はベッドの上で胡座をかき、腕組みをして唸る。


やがて、このまま唸っていてもしかたがないと思ったのか、少女はベッドから降りすっと立ち上がった。
ここはどこだろう?
改めて周りを見渡す。

一つしかない窓には黒の分厚いカーテンがかけられ、外は見えないが、すきまから漏れてくる光の加減からすると、どうやら朝らしい。
部屋の中には燭台がいくつかあって、ロウソクがチラチラと燃えていた。
部屋の照明はこれだけだ
壁には、古ぼけた本がびっしりと納められた本棚
それに何につかうかわからない物が棚に雑然と並べられている。
しかし、これらはあまり使われていないようだ
ホコリっぽい臭いがする。


きょろきょろと見回していると、今までベッドだと思っていたのは、テーブルの上に布を敷いたものであったことに気付いた。
布には不思議な模様が描かれている
幾何学的な模様と見たことがないくねくねとした文字

これは何かの暗号だろうか?
「これはチェキしなければ」
好奇心がうずいた


ふと、テーブルの隅にちょこんと置かれているものに気付いた。
近寄って"それ"に手を伸ばす

ビクッ
それに触れた瞬間、ビリッと電流が流れたような感じを覚えた。

「羽飾りのついた帽子、赤いマント、刺繍が入った服・・・そしてこのマスク」
それは何かの衣装らしい・・・が

─私はこれを知っている─

手にした"それ"からドクドクと記憶が流れ込んでくるようだ
だんだんと"自分"がはっきりとしてきた。

「わたしは・・・」
マスクを顔にかけてみる。

その瞬間、暗く長いトンネルから抜け出したかのように、一気に記憶が蘇った。

「そう、わたしは・・・」
服を着、マントをひるがえしながら羽織る。

「わたしの名前は美少女怪盗クローバー!」








名探偵四葉VS美少女怪盗クローバー(前編)
─忙しい休日─











「ふぅ」
読んでいた雑誌をテーブルの上に置き、僕は一息ついた。

今日は休日で、めずらしく約束がない日だった。
いや、正確に言うと、約束はあったのだが
「急用ができたから・・・兄くん、またの機会に・・・」
と、妹の千影が今朝になって約束を断ってきたのだ
いつもなら少々・・・というかちょっと強引にでも誘ってくるのに今日はどうしたんだ?
その電話での様子に少し違和感を覚えて「もしよかったら手伝おうか?」と遠慮がちに聞くが
「兄くんには・・・手に負えないよ」とそっけない返事。
僕も千影がそう言うんならそうなんだろうと「じゃあ、がんばってね」とやぶへびにならないうちに電話を切った。

そんなわけで今日は一人なのだ

「毎日、忙しいからな」
12人も妹がいると、忙しい日々の連続だ
同じ家にいないのがせめてもの救いだろうか

今、僕は一人暮らしをしている。
両親は仕事で海外に行ってほとんど日本には帰ってこないし、妹たちは事情があって知り合いの家に預けられているからだ

ただ、妹たちの家は僕の家のわりと近くなので、ことあるごとに訪ねてきたりする。
特に四葉は、チェキと称して(よくわからないが調べることらしい) 僕のところにちょくちょくやってくる。
普通だったら鬱陶しくも感じるはずだが、四葉特有の性格のためだろうか?特に嫌な感じはしない。

ただ、この前はちょっとやりすぎだった。

その日、僕は妹の一人である咲耶のショッピングに付き合っていたのだが、四葉が美少女怪盗クローバーの恰好で僕たちの目の前に現れたのだ。
いろいろな人たちで賑わっているショッピング街のど真ん中で・・・

ちなみに美少女怪盗クローバーの恰好とは、派手派手刺繍が入った服に羽飾りのついた帽子、赤いマントとマスクといった、演劇か仮装大会などでしかお目にかかれないような服装だ

四葉にすれば兄妹のスキンシップのつもりなんだろうけど、今日は日が悪かった。

「四葉ちゃん・・・ちょっとコッチにいらっしゃい♪」
「わ、わたしは四葉じゃないデス。わたしの名前は、び・・・」
「いいから来なさい!」

咲耶は嫌がる四葉を無理やり建物の影に引っ張りこみ・・・しばらくして紙袋をもって一人戻ってきた。

「はいこれ、お兄様預かっておいて」

と咲耶は有無を言わさず僕に紙袋を押し付ける。
中にはクローバーの衣装が入っていた。

僕は「四葉はどうしたの?」と聞きたかったが、咲耶の無言で発している「何も聞かないで」というオーラに負けて、何も言えなかった。

あれから、四葉はおとなしくしているらしい
すくなくとも僕のところには来ていない。
今ごろ四葉は何してるかな?


そんなことを考えていたとき電話が鳴った。

ひょっとして千影か?
僕がちょっとおどおどしながら電話にでると
「兄上様、おはようございます。鞠絵です。あの、千影ちゃんから聞いたのですが・・・・」
電話をかけてきたのは鞠絵だった。

鞠絵は僕の妹の一人で、昔は体が弱く療養所で静養していたのだが、最近退院して僕のいる街に住むようになった。
ちょっとひかえめな正格で、あんまり自分から電話とかしないのだけど・・・何かあったのかな?


「・・・それでは、午後3時ごろに伺います」
「うん、待ってるよ」

鞠絵からの電話は、今日僕の家に遊びに行っても良いかという、確認の電話だった。
一人きりの休日は貴重な時間ではあるが、可愛い妹のためならしょうがない
それに鞠絵は今までなかなか会えなかったのだからなおのことだ
僕は一も二も無く承知した。


「さて、それじゃあ・・・」

立ち上がって部屋を見渡す。

読み散らかした雑誌や新聞
CDやビデオテープ
片付けるのが面倒で出しっ放しだった衣類
その他もろもろが部屋中に散乱していた。

「ははは・・・とりあえず掃除するか」

僕は、手始めに近くに転がっていた雑誌から集め始めた。


◇◇◇◇◇


「チェキチェキ〜♪」
マントを翻しながらクローバーが走る
手には紙の束やロープ等いろいろな道具を抱えていた。

「クフフッ、兄チャマ。今日こそわたしの勝ちデス〜」
もうすでに勝ったかのようにクローバーはほくそ笑んだ。


◇◇◇◇◇


ピンポーン

雑誌の類いを片付け、掃除機をかけようとしていたとき玄関の呼び鈴が鳴・・・
バンッ
「兄チャマ、大変デス!」

呼び鈴が鳴り終わらないうちに、ドアがすごい音とともに開け放たれ、四葉が飛込んできた。

「やあ、四葉。ひさしぶりだね。今日はどうしたんだい?」
ひさしぶりに会った四葉は、あいかわらずで、ちょっとうれしかった。

「兄チャマ、コレ!」
四葉がハガキサイズのカードを僕に突き出す

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挑戦状

兄チャマクン。キミは最近四葉ちゃんのこと大事にしていないらしいね
これはいったいどういうことなのデスか?
もうキミには四葉ちゃんは任せられない!

本日12時、公園の子供広場まで来たまえ
わたしと勝負だ
もしわたしに負けるようなことがあったら・・・わかっているね
四葉ちゃんが大事なら、全力でわたしの謎を解いてみたまえ

美少女怪盗クローバーより
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「これは?」
「美少女怪盗クローバーからの挑戦状デス!兄チャマ一大事デス!」
「・・・」
「どうしたデスか?兄チャマ、早くいかないと、四葉、兄チャマと引き離されてしまうデス」
四葉が僕を急かすように言う

僕ははぁとため息をついた。
こんなことしなくても、普通に誘ってくれれば良いのに・・・
とは思ったが、四葉だしな、の一言で納得することにした。

(ええっと、今11時半だから、鞠絵との約束の時間まで・・・ブツブツ・・・)
頭の中で今日のスケジュールを組み立てる

「それじゃあ、公園に行こうか」
「わぁ、兄チャマ、クローバーと対決するですね」
「ああ、大切な妹をクローバーに渡すわけにはいかないからね」
「兄チャマ・・・」
僕は四葉の頭をぽんぽんと手で撫でた


◇◇◇◇◇


休日ともあって、公園は人でいっぱいだった。

「う〜ん、クローバーは来てませんデスね〜」
四葉がきょろきょろとあたりを見回す。

僕は「そうだね」と相槌をうったが、よくよく考えれば四葉が僕のそばに居る限りクローバーが出てくることはない。

「ちょっとトイレに・・・」
僕は四葉が準備する時間をつくってあげようと思ってそう言った。

「何言ってるデスか。もうすぐクローバーが出てくる時間デス。二人一緒にいないとアブナイデス」
四葉が僕の腕を引っ張る
「え、でも・・・」

僕がどうしようかと思っていたとき

「わーはっはっはー、はーっ!」

聞き慣れた声が聞こえた。
間違いない、四葉の、クローバーの声だ

あれ?でも四葉は・・・
隣りにいる四葉をちらと見る
・・・ここにいるぞ?

僕が首を捻って悩んでいると

「兄チャマ、あそこ」
四葉がジャングルジムの上を指さした。

そこには赤いマントを羽織り、羽飾りのついた帽子、赤いマスクをつけた人物が腕組みして立っていた。
風にマントがたなびく

「だ、誰だ」
「わたしの名前は美少女怪盗クローバー!兄チャマクン待っていたゾ!」

僕は困惑した。
四葉は僕のすぐ隣にいる。
じゃあ、あのジムの上にいるクローバーは、誰だ?

「フッ・・・」
クローバーは不敵に微笑んだ。

─ 続く─


<<次回予告>>

四葉と兄の前に現れた美少女怪盗クローバー
「兄チャマ、すごいデス!」
驚く兄と歓喜する四葉
はたしてクローバーの正体はなにものなのか
兄は四葉を守り抜くことができるのであろうか

次回、名探偵四葉VS美少女怪盗クローバー(中編)仮面の下の顔

あなたのハートをチェキよ♪


「名探偵四葉VS美少女怪盗クローバー(中編)」を読む


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